第11回アガサ・クリスティー賞受賞,そして2022年本屋大賞受賞作品です。
イヤー面白かったです。2日間で一気読みしてしまいました。
本屋大賞受賞作品を残らず読みたくなりました。
さて,「同志少女よ、敵を撃て」です。
徹頭徹尾,女性と言うことに焦点を当てた作品です。
女性兵士について思うこと
第二次世界大戦時,ソビエト連邦では,100万人を超える女性が従軍しました。
本書は,独ソ戦に編成された,女性のみからなる狙撃兵小隊を描いた傑作です。
ドイツでもアメリカでも女性は実戦投入されることはありませんでした。
それは我が国日本においても同様です。
日本とドイツでは,女性は従軍することはありませんでした。
ドイツ女性は,国内で農業と,家事と,看護に明け暮れていると描写されます。
日本女性は「銃後の守り」として,国内を支えました。
アメリカでは,軍隊に身を置く女性も存在しています。しかしながら,アメリカの女性兵士は,事務職専用であったようです。
本書では,ハイヒールとスカートを身につけ,勇ましく出征する兵士を後ろで応援するチアガールのような存在として述べられています。
一方ソビエトでは違っていました。
女性も兵士として実戦投入されました。
これが共産主義思想による,平等主義なのでしょうか。
そうでないことは,最後に語られます。
何にせよ,ソビエトとその他の国々では,女性の戦争への参加の仕方が,決定的に違っていました。
彼女たちは何のために戦ったのか
ソビエトでも女性は徴兵制の対象ではありませんでした。
そういう意味では,自らの意思で,戦争にはせ参じたことは事実です。
それでは彼女たちは何のために戦ったのでしょう。
「女性のみからなる狙撃小隊。」
彼女たちには全員に共通点がありました。
それは全員「村を焼かれ,家族が殺された。」と言うことです。
スカウトであり,教官であった「イリーナ」は
「戦いたいか,死にたいか」と尋ねます。
そして,戦うことを選んだものを,集め,訓練し,狙撃小隊を作りあげました。
しかしながら,少女たちの戦う理由はそれぞれでした。
「女性は,自ら戦う事のできる者であることを証明する。」
「自由を守るために」
「子供たちを犠牲にしないために」
「女性を守るために(本当は復讐だ)」
「コサックの誇りのために」
殺すことに耐えきれず,訓練から去って行った仲間たちもいました。
その中で残った5名は,生粋の戦士だったと思います。
戦場にて
初陣は,スターリングラード奪還のための「ウラヌス作戦」でした。
初陣にて,狙撃小隊で最も優秀だった兵士が命を落とします。
最初から最後まで何度も語られる,「狙撃兵としての心構え」が,強調されます。
そして,最も苛烈な戦場になった,「スターリングラード」
これは独ソ戦のみならず,人類史上でも屈指の凄惨な軍事戦であったと目されています。
臨場感あふれる市街戦の描写が続きます。
ともに戦った戦友たちが死んでいきます。
狙撃兵として戦い続ける先に何があるというのでしょうか。
文字通り,「真正面で命と向き合う」狙撃兵としての,特殊性と苦悩が浮かび上がります。
ベルリン陥落にむけて,ソ連最後の総仕上げとなった,「ケーニヒスベルク」
主人公「セラフィマ」は,元々の彼女の戦う理由だった,復讐を果たします。
が,しかし
「同志少女よ、敵を撃て」
敵とは何だったのでしょうか。 ここでは語りません。
彼女たちは,命をかけて,戦う理由を全うしたと言えるでしょう。
本作は,徹頭徹尾女性と言うことに焦点を当てて描かれています。
戦争は女の顔をしていない
本当の意味で,「強さ」と「信念」を兼ね備えた彼女たちの戦争は終わりました。
それぞれにあった「戦う理由」。
生き残った(死んでしまった)彼女たちは,目的を達成することができたのでしょうか。
「愛する人を見つけよ。あるいは, 生きがいを持て」
かつて,英雄「リュドミラ・パヴリチェンコ」は語りました。
「戦後,狙撃兵はどう生きればよいのか。」と言う質問に答えてです。
戦後,帰還兵の精神的障害は無視されました。
女性兵士は無用となりました。
そして敬遠され疎外されました。
それでも,彼女たちは,生きる目的(生きがい)を見つけていきました。
あるものは,愛する人を手に入れていきました。
主人公「セラフィマ」は,「アレクシエーヴィチ」の取材を受けることを決めたとき,
彼女の中で戦争は終わりました。
「戦争は女の顔をしていない」
スベトラーナ・アレクシエーヴィチ(ベラルーシ1948年生まれ)
ノーベル文学賞受賞作家のデビュー作にして主著です。
この作品はアレクシエーヴィチが1984年に発表した最初の作品です。雑誌記者だった30歳代の彼女が1978年から取材を開始して,500人を超える女性から聞き取りをしました。完成後2年間は出版を許されず,ペレストロイカ後に出されました。
ベラルーシの独裁者ルカシェンコ大統領は,彼女を「外国で著書を出版し祖国を中傷して金をもらっている」と非難し,長い間ベラルーシでは出版禁止にされてきました。
P.S,
教官「イリーナ」の生きる目的が,あんなに早く語られていたとは驚きでした。
読み返して,初めて気がつきました。
参った・・・