「戦争は女の顔をしていない」
スベトラーナ・アレクシエーヴィチ(ベラルーシ1948年生まれ)
ノーベル文学賞受賞作家のデビュー作にして主著です。
恥ずかしながら,この本については全く知りませんでした。
2022年本屋大賞受賞作「同志少女よ、敵を撃て」にて,この本の存在を知りました。
主人公「セラフィマ」(同志少女よ,敵を撃て)の戦争が終わったのは,アレクシエーヴィチの取材を受けることを決めたときでした。
がぜんアレクシエーヴィチに興味がわきました。
早速「楽天」で取り寄せました。
便利な時代になったものです。
女性は自ら望んで従軍した
「戦争は女の顔をしていない」を読むきっかけになった「同志少女よ、敵を撃て」です。
この作品は,独ソ戦に編成された,女性のみからなる狙撃兵小隊を描いた傑作です。
この狙撃小隊の少女たちの共通点は,「村を焼かれ,家族が殺された。」と言うことです。
私は復讐心が,従軍の理由だと考えました。
がそれは大きな間違いでした。
第二次世界大戦時,ソビエト連邦では,100万人を超える女性が従軍しました。
軍への参加の仕方は,実に多種多様でした。
軍医,看護師,運転手,通信兵,炊事兵,洗濯係はもとより,
パイロット,高射砲兵,狙撃手,機関銃兵,パルチザンなど,
本当に様々な分野で活動しました。
意外だったのは,
女性たちが強い「祖国愛」を胸に、
自ら志願して戦線へと向かった点です。
何度も何度も徴兵司令部で門前払いを食らいます。
それでも上層部に直談判して,従軍許可を獲得していく姿には驚かされました。
1年以上も徴兵司令部に通い続けた少女もいました。
どさくさに紛れて,軍隊に混ざり込んだ少女もいました。
部隊では,軍は男の世界,女子供の来る場所ではないとばかりに,
男性兵士たちに疎まれることもありました。
それでも,女性たちは自らの意思で,軍に参加していったのです。
彼女たちは,どのような心境だったのでしょうか。
何故そこまで「祖国」に対して,自らを捧げられたのでしょうか。
そのあたり,実に興味深いところです。
共産主義革命の理想の高さを感じます。
男女の平等思想もあったでしょう。
そして
教育の恐ろしさを感じます。
真実の戦争
歴史は勝者によって作られます。
戦勝者の歴史は英雄譚です。
それは全て素晴らしいものでなければなりませんでした。
英雄的な犠牲でなければなりませんでした。
戦後,帰還兵の精神的障害は無視されました。
捕虜となったものは,裏切り者扱いされました。
従軍した女性は,男漁りのあばずれとして蔑まれました。
(一部の英雄は別です)
本書の中で,彼女たちの声は極めてリアルです。
大釜いっぱいのスープを作ったのに,戦闘から誰一人帰ってこなかった食事係の話。
村中の家や,家畜や,人が焼かれる光景を目にしたパルチザンの少女。
自分の赤ちゃんを沼に沈めた母親。
白兵戦で,ボキボキと骨の折れる音を耳にする砲兵中隊衛生指導員。
銃弾飛び交う中を這いずりながら,負傷兵を引きずって何往復もする衛生兵。
戦争が終わった時,背が10センチも伸びていた少女。
目を塞ぎたくなるような話,
それでも感動的な話が,
約500ページにわたって続きます。
「ひとつとして同じ話がない。どの人にもその人の声があり、それが合唱となる。
人間の生涯と同じ長さの本を書いているのだ、と私は得心する。」
著者アレクシエーヴィチの言葉です。
涙もろい私ではあります。
しかしながら,これほど涙が流れ続けた本は珍しいです。
人類史の中で,最も戦争の真実に近づいた作品のように思います。